偶然と現実
僕が、だれかの治っているのに立ち会っていますね、そうすると、やっぱりものすごくおもしろい偶然が起こるのです。その人はその偶然を契機によくなられるのですよ。
その話をぼくがそのまますると、「そんなばかなことがあるか」とみなさん言うのですよ。あるかって、あったのだからしょうがないでしょう。現実をそのまま語ったらみんなが「おかしい、おかしい」と言う。
というのは、みんなが「現実はこうあるべきだ」という、ものすごく、けったいなことを信じているのですよね。
現実には面白い偶然はそうそう起こらない、という前提の上に現代の小説が書かれているとすると、それはみんなSFなのです、ぼくに言わせれば。
近代小説にはほんとうのリアリティーなんか書いて無くて、あれは空想科学小説みたいなものです。科学に縛られて、つまり、因果的に説明可能なことしか起こってはならないとかそんなばかなことはないんです。
実際に僕が遭遇している現実では偶然ということが多いんですよ。
・・・途中省略・・・
ぼくは何をしているかというと、偶然待ちの商売をしているのです。みんな偶然を待つ力がないから、何か必然的な方法で治そうとして、全部失敗するのです。ぼくは治そうとなんかせずに、ただずっと偶然を待っているんです。